2004 春 ブルク/モーゼル音楽祭 』
前編

きっかけ
今回私たちをこの音楽祭へ招待してくださったパウル・クノートさんにお会いしたのは、2003年の夏に休暇を過ごすために訪れたモーゼル地方の村・ブルクで彼の経営するペンションに宿泊したことがきっかけでした。パウル・クノートさんは村のお祭りなどを取り仕切ったりしておられ、公仁子さんがバレエをしているということを話したところぜひ出演してほしいとお願いされ、まだまだ先のことではあったのではっきりとその場で返事できる状態ではなかったのですが、母の強い勧めもあり、日が近づくにつれやってもいいかなと思いまじめました。

休暇を終え帰ってきてからあまり深く考えてはいなかったのですが、クノートさんから幾度となく電話を頂いたりしているうちにどの作品をするのかなど具体的なことを考え初めていました。

当初は一人ではなく、知り合いの男性ダンサーに共演していただく予定だったのですが、当日の都合がつかず、一人での出演に決まりました。

出発!

4月13日火曜日


一ヶ月ほど前から家族中で次々と風邪を引き、なおったと思ったらまたぶり返したりなどしていたため、出発当日まで準備にはまったく手をつけず、ぎりぎりまでどうしたらよいものかと迷っていました。出発を決めた当日の朝からばたばたと準備をはじめたのでした。

正午ごろ、レンタカー屋さんへ9人乗りのバンを借りに行ったのですが、8日間で320EURという劇的な安さで借りたのですが、やはり値段相応のものでした。窓のかぎはかからないし、たばこ臭いぼろぼろの内装。。。。。とその辺は我慢し、荷物を詰め込み出発です。

家を出発したのはもう16時をまわってからでした。
車の燃費や道の状況など、どれだけの時間のロスがあるか分からかったのですが、普通に行っても目的地まで約390kmあるところなので途中の休憩などいれても5時間はかかると考えていました。

姫のぐずり具合を考え、ルナの散歩をかねてフランクフルトまでの道のりで2回休憩しました。
フランクフルトの空港付近を19時30分ごろ通過し、目的地の村のブルクに21時30分到着!

道に迷うこともなく渋滞に巻き込まれることもないとても恵まれた状況で思っていた通りの時間でなんとか到着することができました。

宿になるクノートさんのペンションへついたのはもう暗くなってからでした。
去年一度来たことはあったものの、うろ覚えでしたが近くまできたら、去年とはまったく変わる様子のない小さな町ブルクは容易に見つけることができました。


写真中央に見える白い建物が宿のゲストハウスです。
ブドウ畑に囲まれ、村の一番高いところにあります。


到着した時間が遅かったにもかかわらず、宿のご主人のクノートさんご夫妻は待っていてくださり、公仁子さんを厚い抱擁で迎えてくださりました。ちなみにフィはほとんど無視状態のほったらかしにされました。それよりも姫のことが気になったようです。

厚い歓迎を受けた後はワインを頂き、それからへやに案内されました。
用意してくださっていた部屋はとても広く、大きな窓を開けるとすぐがポーチになっていて、その先はブドウ畑、ルナをすぐ外に出られるので大喜びでした。

ポーチからの眺め

その日は5時間以上のドライブに皆疲れ、すぐに休ませて頂くことになりました。

ルナは浴室にあった台の下にすっぽり収まり、お気に入りの様子でした

ブルク/モーゼル

ここでモーゼル地方とブルク村のご紹介

− モーゼルと歴史 −

ローマが栄えていた時代より、モーゼル川の流れやその地形はドイツだけでなくヨーロッパの国のなかでもとても美しくロマンチックなものだと語られてきました。人々がモーゼルを語るときに欠かせないのはやはり”ワイン”です。
それもそのはず、この地方でワインのために葡萄の栽培が始まったのは知られているだけでも紀元前500年からになります。当時この地方に進出していたケルト族がこの地方に訪れワイン作りだけでなく、それ以外でもこの地に根付く文化の基を残していったものが始まりとされています。


− モーゼルと観光 −
モーゼルに訪れる観光客のほとんどはワインが目当てと言ってもいいと思います。どんな小さな村に訪れてもワインを造っている蔵元が有ります。そのほとんどでは試飲や直販をしているので、それらを転々としながらのんびりとすごすことは、ワイン好きの人々には至福の時だと思います。

またモーゼルには長い歴史の刻まれた町がたくさん有ります。その中でも有名なのはローマの遺跡がたくさん残るトリヤ−や小高い山の上に聳え立つお城とかわいい町並みのバーンカッセル、町が川をはさんで橋でつながるトラーベン・トラーバッハなどが大きな町と観光名所とも言えるでしょう。それ以外にもあげきれないほどのきれいな町や村、そして遺跡の数々は訪れる人々を楽しませてくれます。

日本のガイドブックではライン川くだりがとても有名ですが、モーゼル川もラインに負けないぐらいのお城や見所いっぱいの町が有ります。
日本でのガイドブックが欠しいためなのか、日本人観光客は滞在中は一度も見かけることは有りませんでした。

− モーゼルとワイン −

モーゼル地方特有のスレートの土壌と急勾配なすスロープがなくてはこの地方でもワインはこれほど有名にはならなかったといっても過言ではありません。
モーゼル川でボートに乗り静かな流れに揺られながら眺める景色は一面に広がるブドウ畑。勾配に有無にかかわらずどこまでも広がるブドウ畑はとてもきれいです。
宿のクノートさんの息子さんのライナーさんにワインの試飲をお願いしたときに伺ったのですが、このあたりで平地にもブドウ畑を作るようになったのはここ30年ほどのことだそうで、もともとは勾配のある斜面だけを利用して作っていたそうです。
クノート家で管理されて入るブドウ畑は近いところから車でも時間のかかる遠いところなど、いろいろなところに点在しているそうですが、それは土壌の違いやそこで育つブドウの種類を増やしいろいろな味のワインを作るためだそうです。

モーゼルのワインは日本人の口に合うのかとても飲みやすく、一度飲むとまた飲みたくなる、そんなワインがたくさんあります。

モーゼル川のコブレンツからトリヤ−までの地図です。
ブルクは真中あたりに位置しますが見つけられるでしょうか?
コブレンツでライン川と合流します。




道端に積み上げられているワインのビンにはそれぞれの蔵元のラベルが張られています。
ワインが買われたあとも、同じワインを求める人たちは飲み終わったビンを返却し、蔵元でそれらを洗浄し、再利用されるそうです。
新しいビンをつくるよりエコロジカルであるから、できるだけそうしてもらいたいとお話されていました。

− モーゼルとブルク −
<村のホームページ>
http://www.burg-mosel.de
*このページからブルクの古い写真から宿情報までいろいろ見ることが出来ます。

ブルクはフランクフルトから約145kmほど離れた村で、モーゼル川の東沿岸に位置します。
一番近い地方空港でしたらフランクフルト・ハーン空港でブルクから14kmほどはなれています。また一番近い電車の駅はReil/Moselで、ここはブルクの対岸にある村です。

ブルクは歩いて村を一周しても一日はかからないだろうと思えるような小さな所で川沿いの斜面にこじんまりとまとまっている村です。ドイツの町や村なら必ずといってもあるような小さな教会があり、スーパーなど買い物できるとこはなく、農機具やブドウ栽培に必要な肥料などをおいてあるところが一つあるだけでした。

レストランは見た限りでも2軒あり、その片方のポストというところに入ってみたのですが、とてもきれいでかわいく、料理もボリュームたっぷりでおいしかったです。

休暇の過ごし方は人それぞれあるとは思いますが、ここに訪れるには何をするでもなく、好きな本を読み、ワインを片手にのんびりするにはこれほど最適な場所はないといえるでしょう。


リハーサル開始!

4月14日水曜日

ブルク二日目は暖かく、一面に咲き乱れるたんぽぽはエアフルトとちがって春を感じさせてくれました。

まずは腹ごしらえに朝食を頂きました。そのときに、いつでも練習にいけるようにとSaengerheim(歌人の館とでもいうのでしょうか、舞台となる公民館です。)のかぎを預かりました。

朝食後はルナと共に散歩に出かけました。村の中から続く曲がりくねった道はどこまでものび、見渡す限り広がるブドウ畑の間を縫うように走っています。



斜面に村があるため、村の中の道はずいぶんとくねくねに曲がっています。
下の道から一階に入っても、三階から出ると上の道に通じている、そんな家がたくさんありました。
中央に見えるのは昔使われていたブドウを絞るワインプレスといわれる機械です・


ルナの散歩が終わったら、Saengerheimへ向かい、早速リハーサルです。
まずは舞台の広さを見るために軽いウォームアップをし、足慣らし程度に一回ずつ通して練習してみました。去年の夏に来たときに舞台は一度見せていただいていたのですが、思っていた以上に狭い舞台にてこずりました。本番までの3日間で調整をし、体も慣らしていかないといけないなと、とても感じました。



舞台は奥行き約3m、幅が約6−7mほどしかなく、舞台と客席は30cmほどしか高低差がありませんでした。
ここまで客席と接近して踊ったこともなく、すこし戸惑いもありました。

とりあえず病み上がりのため、少しずつ体を慣らしていくため午前中は軽い練習だけにしておき、近所の町へ買い物に出かけることにしました。

一番近く、おおきめの町であるTraben−Trarbach(トラーベン・トラーバッハ)に向かったのですが、ここはブルクから車で約10分ほどの距離、天気もよく川の流れを眺めながらのドライブには最適でした。
トラーベン・トラーバッハでは水や日用雑貨を買い、昼食のために中華料理屋さんにより、お持ち帰りしました。

宿に戻ってからポーチにあるテーブルで昼食をとり、昼食後はみなそろってお昼寝をしました。


古いトラクターがそこら中を走り回っていました。
スピードがあまり出ないためかのんびりと仕事をしているようでしたが、
とても古めかしくねんきの入った道具たちは頼もしく見えました。


夕方になって、もう一度練習にいくことにして、再度Saengerheimへ行きました。
舞台の狭さのため、今まで練習していた通りには行かず少し大変でした。
ただ、風邪を長いこと患っていたので、体力の低下を心配していたのですが、思ったほどではなく、本番までになんとかなりそうだと安心しました。

練習の後は少し時間があったので隣町のEnkirchへお茶をするため出かけることにしました。
カフェで紅茶とアイスを食べ、宿で夕食をごちそうになるためにブルクへ戻りました。

夕食はドイツ式でパンとハムやチーズのみ、予想はしていたものの、すこしがっかり。もちろんワインも頂きました。ただ、今日こちらに着かれたオペラ歌手のエリザベスさんと彼女の2人の子供たちと挨拶をしました。エリザベスさんはバレエの2作目のワルツを歌ってくださる方で、ミュンヘンから招かれておいでになられたそうです。

夕食後は部屋に戻り、ゆっくりと過ごした後に就寝しました。

ピクニック


4月15日木曜日

三日目の朝は二日目と同じように始まりました。まずは朝食を頂き、その後にはルナの散歩へ出かけました。


この上ない天気に恵まれルナも大喜びで走り回っていました。
ルナは石投げが大好きなのですが、今回はそこらにころがるコルクを投げていっぱい遊びました。

午前中にまた練習のために公民館へ向かい、ウォームアップも含め一時間ほど体を動かしました。
この日の午後はピアニストさんも到着されるとお聞きしており、できるなら歌手の方とピアニストさんと一緒に練習するために、昨日よりも少し多めに練習しました。




ブドウの木は芽がでたばかりで葉はまだ出ていませんでした。
芽が出始めたら均一にのびることができるように、枝を形付けしばってありました。
その縛り方は人それぞれなのか、はげしくのばし放題になったままになっている畑もあり↓こんな状態でした・。



お昼はReilという川をはさんで斜め向かいにある村の川岸でガソリンスタンドで買ってきたサンドイッチを食べました。天気はとてもよく、川を上っていくボートを眺めながら、ゆったりとした気分でのんびり出来ました。

新鮮な空気を吸ってどうやら風邪もなおったようです。




川のほとりでお昼ご飯。
姫はタイミングよくお昼寝にはいりました。


夕方遅くにピアニストのクラウスさんが到着。
夕食を一緒にした後、エリザベスさんとクラウスさんと共にSaengerheimへ行き、ワルツの練習をはじめました。
演奏していただくことになっていた曲は前もってCDを頂いていたのですが、クラウスさんとエリザベスさんは違うものが伝わっていたのか、曲の始まりが練習してきたものではなかったので、始めから調整しなおして頂いて練習の再開をしました。

今まで練習をしてきたのがCD相手だったので、CDの曲のスピードにあわせ振り付けを考えていました。そのために、ライブで音楽をしていただくときに、歌手の人が見せ場と思いためたり、曲のスピードが一定でない場合が多く、なかなか最初からピタリとあわせることができるものではなく、とても難しく思いました。

本番まであと1日しかなく、すこしあせりもみせながら、エリザベスさんも、クラウスさんもとてもよいひとで、こちらの注文にも快く答えてくださり、なんとかなりそうだと思いました。

フランクフルトへ


4月16日金曜日


本日はフィ家一家が日本から到着するため、フランクフルトへ迎えに行かなければいけないためにばたばたと忙しい一日になりました。

まずは朝食後、10:30ごろからエリザベスさんとクラウスさんと共にワルツの練習に励みました。
テンポをあわせたり、変更をお願いしながら、通して練習しているうちに少ない練習のなかでも足並みがそろってきました。一通り満足のいく練習ができた後に、衣装を着て本番さながらの練習をして、踊る予定の3作を通して稽古し、午前の練習を終えました。

お昼を過ぎたときにフィ一家を迎えるためにフランクフルト空港へ向かいました。
空港へはスムーズに着き、飛行機のつく予定の30分ほどまえについたのですが、飛行機も時間より30分早く到着していたようで、到着後はほとんど待つこともなく皆と会うことが出来ました。

フランクフルトからブルクへ戻る間は姫の号泣がバックミュージックに流れつづけていました。



ブルクへついてからライナー・クノートさんがワインの試飲会を開いてくれました。

ブルクへついてからはまず皆が泊まる宿に案内してもらい、少し休憩をしてからライナーさんにワインの試飲会を開いていただきました。
ワインは2003年に収穫したブドウから作ったワインのうち4種類をためさせていただきました。
どのワインも味わい深くそれ以上に歴史の話がとても興味深かったです。

モーゼル地方の土壌のほとんどはスレート状のものがおおく、その堅さや厚さがワインの味ととても関係が有るようです。ブルクやこの付近ではきめ細かいスレートの土壌が多く、そのためワインもきめ細かい味わいになるようです。また堅く分厚いスレート土壌の土地もあり、そこでつくられたワインは大味なものになりやすいですが、こくの深い特徴のあるものが出来るようです。

クノートさんのところではこの風土にあうリースリング種の白ワインのみを造られていました。
一番いいものができる種類だけに絞り、こだわりぬいた結果だそうです。
リースリング種は晩熟品種。耐寒性があり、ドイツの気候風土にあった品種です。ミネラルの風味を持つものが多くあります。ドイツで二番目に多く栽培されているそうです。生産量がドイツ2番目とあるのは、その特徴的な傾斜を利用したワイン作りのために一度に大量生産することが出来にくいためだそうです。



写真の土地の傾斜はまだゆるいほうです。
このような傾斜のあるところを籠を背負い体を使ってする作業は並大抵のものではないでしょう。

試飲をしていた1時間ほどの間にライナーさんからいろいろ教えていただいたのですが、ちゃんとメモを取っておらず、うろおぼえの中で印象強かった事柄を載せています。10月中旬にワイン作りを体験させて頂くために訪れようと思っていますので、そのときに詳しくレポートできるようにがんばります。


我が家では去年から年末やパーティーを開く時期にまとめて20本ほど購入しています。
クノートさんのワインはすっきりとしてとても飲みやすく、日本食にもよくあい、なじみやすいワインだと思います。
価格もお手ごろで3.70EURぐらいからです。


試飲が終わってから夕食のためにEdiger(エディガー)というブルクよりもすこし北にある村へ向かいました。この村もこじんまりとしたとてもきれいなところでした。
完全予約制のこのレストラン、メニューもなく、料理人のご主人がじきじきに今日の料理を説明しにきてくださり、そのなかからの注文となりました。
今回はお任せでいろいろな料理をコースのように出していただきました。

まずはスープとサラダから始まり、メインディッシュが1皿目、2皿目、3皿目。。。。。4皿目。。。。。。。これはいつまで続くのだろうと思い、まだあるの?と尋ねたところ、もういいの?と逆に聞かれ、はい、おなかいっぱいですと伝えたところ、後はデザートだけどどうするか、ということで小さめのデザートにしていただき、アイスクリームを食べレストランを後にしました。

フィ一家は今日、日本からフランクフルトへ到着したということもあり大変疲れていたようで、帰りの車の中で姫が号泣しているにもかかわらず爆睡の様子でした。


後編
ブルク/モーゼル音楽祭、本番!
へ続く・・・
前のページホームへ戻る次のページ